言挙げせず、事挙げす

背中が見へる。
渾身揺るがぬ者の、ぬくい心湛へた背中である。慟哭に耐へゆく者の、赤ままの心さらした背中である。

言霊の幸ひするわが國のわが國びとたちは、逆説の如く、言挙げの煩きを厭ひ、未だしとし、ただ人の事挙げにのみ眞善美の實在を見、聴き、感じとつてきた。いまわれらもまた、その道の系譜に連ならう。

ふたたび歩みはじめんとする時にあつて、こちたき口舌の何にならう。ただ事挙げの跡をして、よし、たとへそれの、砂上に刻んだたはひもなき足跡であらうとも、われらの歩んだかたちのままに、そこへ留めてゆかうじやないか。

千萬の軍なりとも言挙げせずとりてきぬべきをのことぞ思ふ


ジャパン・ヤング・グリインズ、大地を蔽ふ昧爽の闇の涯に立ち、夜明けを告げる暁鐘を撞け。

平成二十二年 神無月二十三日
宍戸大裕